
この数週間、自分がなんだか魂の抜けた人形のようだった気がする。
SNSはもちろん、このブログ、文章というものを書く気力が起こってこなかった。
もちろん、仕事はいつもと変わらず粛々とすすめていた。
僕はプロだから。プロの美容師だから。
そして、この美容業界に僕を導いてくれた師匠との約束があったから。
今も「この仕事は手を抜くことなくやり遂げる」という気持ちで満ち溢れている。
2020年7月18日、僕の師匠 新谷直広さんが永眠された。
以下、新谷直広さんを見習い時代の呼び名「マスター」と呼ばせて頂く。
マスターに出会ったのは、僕が19歳の頃。今から約27年前になる。
僕より10歳年上のマスターは、夢を持ち、仕事に情熱を注ぎ、そして豪快に遊んでいて、とても魅力的な男性だった。
「10年後、僕はこの人みたいになれるのだろうか?」
当時、小学校の先生を目指していたものの、進路に悩んでいた僕は「何がやりたいではなく、誰と働きたいかを選ぼう」という結論に至り、23歳の頃マスターの弟子入りをし、何もわからない美容の世界へ飛び込んだ。
それから30歳で独立するまでの7年間、マスターの下で働き学んだ。
今年3月中旬、マスターの息子から「末期癌で余命が長くない」と連絡を受けた。
独立してからは、年に1、2回くらいしか連絡を取り合っていない自分に後悔をした。
コロナ感染防止による面会制限の影響やマスターの体調面もあり、病院にお見舞いにも行けなかったが、マスターとは何回もLINEのやり取りをした。
3月下旬、酔った勢いで「マスター、絶対死んだら嫌ですよ!」と送ったら
「大丈夫やで!俺はまだ死なんから。退院したら一度会おうな!」と返してくださった。
マスターがそう言うなら大丈夫!この人なら奇跡を起こしてくれるに違いないと言い聞かせた自分がいた。
6月3日、突然マスターが僕の店に来てくださった。
すごく嬉しかった。
店に来てくださったのは、オープンする前、つまりは15年前にこの物件を見つけた時、相談に乗って頂いた以来なのだから。
髪型もスッキリ整え、きれいな服装で、マスターは満面の笑顔だった。
ずいぶん痩せて、顔色は悪く、声も小さく、歩き方もしんどそうだったけど、終始笑顔だった。
僕は接客中で、ゆっくりお話ができなかったが、「流行ってるな!いいことや。頑張るんやで」と、満面の笑顔のまま声をかけて下さった。
以前に贈った僕の絵本を「この後、美容師仲間と会うから、あの絵本を見せてもいいか?」と嬉しそうなマスター。絵本を見てくれていたんだと感激した。
数分間しか会えなかったが、笑顔の記憶しかない。
僕が見たマスターの笑顔は、これが最後となる。
あの時、お客様に待ってもらってでも、マスターといっぱい話がしたかったな。
一緒に写真も撮ってもらいたかったな。
「二階にセット面を増やして、着付け室も、事務所も作ったんですよ」ってリニューアルした店を案内したかったな。
スタッフも一人一人紹介したかったな。
あの笑顔で、いっぱい褒めてもらいたかったな。
僕は見習い時代、マスターに褒めてもらいたくて頑張ってきたんだ。
今もそれは変わらないのだと、今更ながら気づいた。
でも、お客様を待たせた時点で、マスターはきっと怒るだろうから、これでよかったのかな。
それから何度か会う約束をしたものの、マスターの体調が良くなくて会えないままだった。
7月1日、独立して15年が過ぎたことをLINEで報告した。
「もう15周年ですか、また必ず会おうね!」
これがマスターからの最後のLINEの返信となった。
その後、既読にもならないので、息子に連絡を入れ、容態が良くないと聞かされる。
会いに行きたいが、しんどい時に行っていいものなのか随分悩んだ。
7月14日、夕方、思い切ってマスターに会いに行った。
初めてご家族の方にもお会いした。
マスターは意識がもうろうとしながらも、僕にいろいろ話をしてくれた。
僕はひと言ひと言を忘れまいと必死で話を聞いた。
昔からブレない人だった。
この日も「自分がやってきたことは、必ず自分に返ってくるから、人のためにつくすんやぞ」と見習いの時と変わらない内容で僕に指導をしてくれた。
たくさん話をしてくれるマスターを見ていると涙が溢れてきた。
マスターも泣いていた。
荒い息、出にくい声、相当しんどかったと思う。
そんな中、マスターは手を差し出してくれた。
僕はその手を両手で包むと、涙が止まらなくなった。
だんだん辛くなり、泣いている自分をどうしていいのかわからなくなり、僕は握った手を振り解き、声を振り絞り「そろそろ帰ります」と告げた。
マスターは、また手を差し出してきた。
握手だと思い、またその手を握ろうと近寄ると、マスターは差し出した手で僕の頭を優しく包み込んで、自分の胸にそっと引き寄せた。
「赤松、頑張るんやで。ありがとうな」
僕は、子どものように泣きじゃくった。
こんなに泣いたのは、いつ以来だろうか?
いっぱいいっぱい泣いた。
ご家族の方に、来週も来ることを快諾して頂き、これからの休みの日は、毎日マスターに会いに行くと心に決めた。
でも、もうそれは叶うことはなかった。
お通夜に遅れて行った僕が、眠られているマスターを見て放心状態でいると、ご家族が話しかけてくれて
「たくさんの人が会いに来てくださいました。その中でも、赤松さんが来てくれた後、すごく嬉しそうな顔してね『赤松は俺の1番弟子なんや』と教えてくれましたよ」
兄弟子や姉弟子、弟弟子や妹弟子、マスターにはたくさんの弟子がいたはずなのに。
それなのに僕は、独立してからは、色々な思いがあり、距離を取りたくて、連絡もしなかった時期もあった。
もっともっと、会うことができたのに。
会えなくても、近況報告くらいできたのに。
そういうことをすごく大切にする人だと、わかっていたのに。
僕は距離を置いた時期があった。
その自分の器の小ささを嘆いた。
マスターはきっと、優しく見守ってくれていたのだと思う。
僕がどんな時も、そのはるかずっと上から見ていてくれたのだと思う。
愛されていたのだと思う。
厳しい人だったが、二人でいるときはいつも優しかった。
愛で包んでくれていた。
先日、マスターのハサミとコームを形見分けして頂いた。
マスターがよく使っていたハサミだった。
1本はメンテナンスして現役として使い、もう1本は事務所に保管することにした。
僕が美容業界にいるのは、マスターがいたから。
マスターのおかげで今の自分がいるのだ。
想いを引き継ぐことはできるだろうか。
みんないつか去ってしまうけど
人を育てること、想いを残せたこと
それが人生の意味なのかもしれない。
恩返しできるようにがんばろう。
赤松隆滋

(Peace of Hair の1階レジにて)

(Peace of Hair の2階にて)
絵本第2弾『ピースマンのまほうのハサミ』
2020年3月25日発売!!

(大垣書店 イオンモールKYOTO店)
Amazonと楽天ブックスや全国の書店で購入できます。
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そらいろプロジェクト京都のイベント情報はこちらからご確認ください。
↓
https://www.sora-pro.jp/event/index.php
※講習、講演スケジュールは この後をご覧ください。
※お問い合わせ等は、そらいろプロジェクト京都まで
『第50回NHK障害福祉賞』で最優秀賞を頂きました。
作品は下記のURLからご覧になれます。
https://www.sora-pro.jp/party/nhk.html
子どものヘアカット啓発アニメ
「ピースマンのチョキチョキできるかな?」
YouTubeで公開
https://www.youtube.com/watch?v=Eu622Nt-Dbo
〈講演・講習・えほんらいぶ〉
7/14(火)
桜美林大学【講演】
「福祉心理学」
※オンライン授業です
8/3(月)【えほんらいぶ】
京都市神川児童館
※外部参加不可
〈ママにもできる!チャイルドカット〉
講師:小寺麻美
【2020年】
5/18(月)
京都市高野児童館(左京区)10:30〜
※延期になりました
※参加ご希望の方は、各児童館までお問い合わせください
〈スマイルカット教室〉
【2020年】
8/31(月)
うずらの里児童館(伏見区)18:30~
9/14(月)
京都市呉竹総合支援学校(伏見区)14:00~
※在校生・卒業生・その兄弟のみの受付になります
ご要望、ご相談、講習依頼は…
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