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☆短編小説『前のオレには戻りたくないねん』☆

「前のオレには戻りたくないねん」

 シンちゃんは、うちの店に来る道中、そう呟いていたそうだ。
彼はこの日、スマイルカットの卒業検定が行われることなど知らない。

 誰もが「散髪が大好き!」「チョキチョキ気持ちいいね」と思ってくれるのならば、僕ら美容師の仕事は最高だろうけど、そうはいかない。

 人の好みも性格も十人十色、万人受けなど存在しない。
でも、そういう好みや性格の問題じゃなく、「今から何が行なわれるのか見通しが立たなくて、恐怖」だったり、「髪を触られる感覚が不快」だったり、「知らない場所に入れないこと」だったり、発達障がい等の理由でカットができない子どもも多くいる。

 シンちゃんも、そのひとりであった。

 シンちゃんとの出会いは、およそ1年前。お母さんに連れられて、ウチの店にやってきた。
当時、幼稚園の年長だった彼は、黒いキャップ帽を被り、サイドの髪は肩につくぐらいあった。
すごくかわいい顔立ちのシンちゃんだが、なぜか口が悪い。
「俺、切らへんし、あっち行け!」

 「親のしつけの問題」や「子どものワガママ」という誤解をされやすい発達障がいの子ども達。シンちゃんも「ワガママな子ども」と言うレッテルを貼るのは簡単だったが、たくさんの子どもと接している僕は、そんなレッテルを貼りはしない。

 偉そうな発言とは裏腹に、彼は恐怖でいっぱい故の行動であると、ハサミを見た時の彼の表情でわかった。

 この日は、待ち合いのソファで前髪とサイドの髪を数本切るだけで終わりにした。たかが数本の髪のカットでも、シンちゃんにしたら、高いハードルだったと思う。
「やめて」聞こえるか聞こえないくらいの、か細い声を、僕はしっかりキャッチした。

 数本の髪をカットした後、シンちゃんは黒色のキャップ帽を深々と被った。お母さんに聞いたところ、髪の長いシンちゃんは、友達から「女の子みたい」と言われ、それが嫌で、男らしい黒色のキャップ帽を被っているそうだ。

 これがシンちゃんと最初の出会い。

 少しずつ、少しずつ、シンちゃんの歩幅で、向き合うことになる。
いや、シンちゃんは、しばらくの間は、僕の方を向いてくれなかったと思う。お母さんに連れられて来たものの、カットは嫌だから、なるべくは僕と関わりたくなかったはずだ。
 お母さんも僕を信じて、根気よくシンちゃんを連れて通ってくださったのが大きかった。お母さん自身もカットして下さって、シンちゃんにカットするところを見せたりもした。
美容室は、多くても月1回くらいの関係性。それでは、信頼関係を築くのは難しい。でも、保護者さんが僕を信頼してくださると、子どもにも伝わりやすいのだと思う。

 美容椅子に座るのを拒むシンちゃん。待ち合いの椅子でカットする日々が続く。

 僕はスマイルカットをしていて、理論や技術をたくさん使うことがある。でも、そこだけに頼る機械的な自分じゃなく、シンちゃんという1人の子どもの個性を見極め、しっかり接していきたい。だから、子どもそれぞれの歩幅を大切にしていきたい、と考えている。

 僕とシンちゃんの距離が、少しずつ縮まって来たのには、理由がある。
僕は、シンちゃんの主張を基本的に「否定」はしない。「否定」はせず、「肯定」した後に「提案」する。
この「肯定」した後に「提案」するのがミソだ。

 例えばこうだ。
シンちゃんは、カット椅子に座るのを拒む。ここで椅子に座るのを説得しがちだが、それはしない。
シンちゃんは、カット椅子に座ることに、嫌がる理由があるはずだから、無理強いはしない。
「椅子には座らない」と言うシンちゃんに、僕は「わかった」と彼の意見を「肯定」する。次に僕は「提案」をしてみる。「じゃあ、この待ち合いの椅子で5分だけ切らせて。」
子どもは素直だ。自分の意見が通ると、次はこちらのお願いを聞こうとする子が多い。
「いやいやスイッチ」が入ってしまうと、何でもかんでも拒否するが、こちらが歩み寄って、子どもの嫌がる気持ちを認めることで、「いやいやスイッチ」をオフにする狙いだ。
そして、「いやいやスイッチ」をオフにした後、少しだけハードルを上げたお願いをしてみる。

 最初は、「カットはしない、あっちに行け」と言っていたシンちゃんが、「前髪だけ切ってもいい」となり、「後ろも少しだけなら切ってもいい」となっていき、「5分間カットしてもいい」と毎回ステップアップしていく。シンちゃんの歩幅を見極めながら、ステップアップ内容を考え「提案」していく。

 シンちゃんは、とても記憶力が良い子だった。
5分間のカットが終わった後、お母さんと「すごいやーん」と、いっぱいシンちゃんを褒めた。少し照れている素振りを見せるシンちゃん。そのまま帰り際に、僕は店の扉を開けながらシンちゃんに提案してみる。「次は、向こうの美容椅子に座ってカットしよな」シンちゃんは、「うん」と頷いた。
次の来店で、シンちゃんは約束通り美容椅子に座ってカットをしてくれた。
シンちゃんを担当して6ヶ月が経っていた。その当時のシンちゃんのカルテに僕はこう記入している。「かなり落ち着いている。信頼関係!」
シンちゃんの表情が、とても優しかった記憶がある。その時くらいから、シンちゃんはようやく、僕の方を向いてくれた気がする。

 こんなに穏やかな優しい表情ができる子どもだったのだ。今まで信頼できずに怖かったのだろうな。ごめんね。シンちゃん。

 美容椅子に座れてから、いや信頼関係ができてから、シンちゃんの成長は凄まじかった。できなかったことでも、帰り際に「次チャレンジしよね」と約束すれば、次回、頑張って克服した。一度できると自信につながるようで、どんどんできることが増えていった。

 気がつけば、スケジュールを示す絵カードも、終わる時間を約束するタイマーも、シンちゃんは必要としなくなっていた。
そして、僕にヘアスタイルのオーダーするようにまでなっていた。「前髪1センチ、後ろは2センチ切って」

 ここまでできたら、スマイルカット卒業となる。

 この時、シンちゃんと出会って、1年2ヶ月が経っていた。優しい笑顔で店に来たシンちゃんは、「前2センチ、横2センチ、後ろ3センチ」とオーダーして、最後まで嫌がることなくカットができた。
カット中、お母さんが教えてくれた。「ここに来る途中、前の俺には戻りたくないねん!って自分自身に言い聞かすようにつぶやいていました。長い髪で女の子に間違われたのが、よほど嫌だったみたいですね」
 シンちゃんは、髪を切ることが苦手で、カットを拒んでいたけど、伸びきった髪を見たお友達からは「女の子みたい」と言われ、彼の心は、傷ついていた。だから、男らしい黒色のキャップ帽を、ずっと被っていたのだ。
 「前のオレには戻りたくないねん」という言葉の重みが僕にはわかる。シンちゃんを担当している美容師の僕だからわかること。それは、シンちゃんは、決してカットが得意になった訳ではない。今でも本当はカットが苦手なのだ。最後まで嫌がらずにカットができているけれど、カット中に、ほんの少しだけ、小刻みに身体が揺れていることは、担当している美容師の僕だから、気づくこと。シンちゃんは、もう女の子と間違えられたくない思いから、苦手なカットにチャレンジしている。自分と戦っていたのだ。

 カットが終わり、スマイルカットの卒業証書を手にしたシンちゃん。お母さんと一緒に、シンちゃんの頑張りをいっぱい褒めた。シンちゃんは、終始、優しく穏やかな表情だった。
そしてこの日、シンちゃんは黒のキャップ帽を被ることはなかった。

 誰だって、苦手なことや、うまくできなかったこと、失敗したことや、恥ずかしい思いをしたことはあるはずだ。
小さな子どもでも、僕たち大人でも、多かれ少なかれそのようなコンプレックスを持って生きている。
いつだって、そんな自分とお別れしたいと戦っている。

 もしも、僕たち美容師が、コンプレックスと戦っている誰かのお手伝いができるのならば、こんな素敵な仕事はないだろう。
これからも、シンちゃんのように、言葉にならない心の声をキャッチできる美容師でいたいと思う。
ずっとずっと、そんな美容師でいたいと思う。











心を込めて、絵本を作りました。
『ピースマンのチョキチョキなんてこわくない!』

現在、久美出版のホームページから購入できます。

http://kumi-web.co.jp

【その他 インターネット販売】
Amazon
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楽天ブックス
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紀伊国屋書店
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書店に並んだり、Amazon等で購入可能になる予定ですが
初版は部数が少ないため、あまり流通しないかもしれません…
お近くの書店でお取り寄せの場合、下記の情報を書店にお伝えください。



『ピースマンのチョキチョキなんてこわくない!』
作 あかまつりゅうじ
絵 ただふみひこ

発行所 久美株式会社
定価 1,200円+税

ISBN978-4-86189-271-4
C8771 ¥1200E





『第50回NHK障害福祉賞』で最優秀賞を頂きました。
作品は下記のURLからご覧になれます。

http://www.sora-pro.jp/party/nhk.html



子どものヘアカット啓発アニメ
「ピースマンのチョキチョキできるかな?」

YouTubeで公開
https://www.youtube.com/watch?v=Eu622Nt-Dbo




〈講演・講習〉
【2016年】

7/12(火)18:30〜
「シンライトミライノ芽×わくわく塾」
京都文教大学サテライトキャンパス

7/13(水)
京都造形芸術大学

8/27(土)13:30〜16:00
第2回はるにれの里・北摂杉の子会ジョイントセミナー
シンポジウム2「自閉症スペクトラム障害のある人への合理的配慮とは?」
※シンポジストとして出演

9/5(月)
スマイルカット~発達障がい児のためのヘアカット~
講演会&実践講習会 in仙台
https://www.facebook.com/events/771125692988014/

10/11(火)
京都光華女子大学




〈ママにもできる!チャイルドカット〉
【2016年】


7/11(月)
城南児童館(伏見区)

9/13(火)
あけぼのこども園(伏見区)

9/26(月)
ニコニコ広場西院(右京区)



〈スマイルカット教室〉
【2016年】


8/29(月)
京都市呉竹総合支援学校(伏見区)14:00~
※在校生・卒業生・その兄弟のみの受付になります

8/29(月)
うずらの里児童館(伏見区)18:30~




ご要望、ご相談は、講習依頼は…
NPO法人そらいろプロジェクト京都まで
http://www.sora-pro.jp





★NPO法人そらいろプロジェクト京都 公式サイト (そらぷろ
http://www.sora-pro.jp/

☆スマイルカット・チャイルドカット・各種講演 等のご依頼・お問い合わせは
そらプロサイト内「お問い合わせフォーム」よりお気軽にお問い合わせください。

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http://ameblo.jp/sorairoproject/

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  1. 2016/07/07(木) 09:17:13|
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